大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和55年(行ウ)10号 判決 1986年1月29日

原告

社会福祉法人恩賜財団済生会

右代表者理事

堀内光

原告

社会福祉法人恩賜財団済生会支部東京都済生会中央病院

右代表者院長

伊賀六一

右原告両名訴訟代理人弁護士

成冨安信

星運吉

中町誠

被告

中央労働委員会

右代表者会長

石川吉右衞門

右指定代理人

西川美数

嶋田忠博

竹下健一

梅田令二

被告補助参加人

全済生会労働組合

右代表者中央執行委員長

口羽素臣

被告補助参加人

全済生会労働組合中央病院支部

右代表者執行委員長

金子有之

右補助参加人両名訴訟代理人弁護士

嶋田喜久雄

筒井信隆

筒井具子

主文

一  原告社会福祉法人恩賜財団済生会支部東京都済生会中央病院の訴を却下する。

二  原告社会福祉法人恩賜財団済生会の請求を棄却する。

三  訴訟費用は参加によって生じた分を含めて原告社会福祉法人恩賜財団済生会の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨(原告両名)

1  被告が中労委昭和五二年(不再)第二五号不当労働行為救済命令再審査申立事件について昭和五四年一二月五日付をもってした命令を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁(被告)

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  補助参加人全済生会労働組合(以下「全済労」という。)及び同全済生会労働組合中央病院支部(以下「支部組合」という。)は、東京都地方労働委員会に対し、原告社会福祉法人恩賜財団済生会(以下「原告済生会」という。)及び同社会福祉法人恩賜財団済生会支部東京都済生会中央病院(以下「原告病院」という。)を被申立人として不当労働行為救済の申立をしたところ、同委員会は都労委昭和五〇年(不)第六一号事件として昭和五二年三月一日付をもって別紙(略)(一)のとおり救済命令(以下「初審命令」という。)を発した。

原告らは、右初審命令の救済命令部分を不服として被告に対し、再審査の申立をなしたところ、(中労委昭和五二年(不再)第二五号)、被告は、昭和五四年一二月五日付をもって別紙(二)のとおり右申立を棄却する旨の命令(以下「本件命令」という。)を発し、右命令書は昭和五四年一二月二八日原告らに交付された。

2  被告の本件命令は事実を誤認し、かつ法令の適用を誤った違法があるから取り消されるべきである。

(一) 本件命令書の理由「第一当委員会が認定した事実」欄記載の事実についての認否及び反論

(1) 1(当事者等)(1)の事実のうち、「その責任において従業員約五〇〇名を雇用し」との事実を除き、その余は認める。

同(2)の事実中、前段の事実、後段の事実のうち支部組合の組合員数が約一二〇名であることは不知、その余は認める。

同(3)の事実は認める。

(2) 2(新労の結成)(1)の事実中、「病院内での組織活動を始めた。」との事実を除き、その余は認める。

同(2)の事実は認める。「申入れがあったとして」と認定している点は、実際に申入れがあったのである。

同(3)の事実中、五月二三日、新労の第一回定期大会が行われたとの事実は認め、その余は知らない。

同(4)の事実は知らない。

(3) 3(職場集会に対する警告)(1)<1>の事実は認める。

同(1)<2>の事実中、「従来なかった深夜勤を導入し、また夜勤回数を増やすものであった。」との事実は否認し、その余は認める。

同(1)<3>の事実中、「勤務表がいったんできあがれば大体その通り勤務していた。」との事実は否認する。勤務表ができてからも事前の申出があれば勤務しないことができた。

同(1)<4>の事実中、「上記勤務表に関する事情調査のため」との事実は知らないが、「その結果、組合は病院に対して同勤務表について抗議した。」との事実を除きその余は認める。実際の集会は午後五時すぎまで行われた模様である。

同(1)<5>の事実は否認する。

同(1)<6>の事実中、「上記の経過報告とその後の対策協議のため、」との集会目的及び「三交替に必要な急患室の看護婦の増員を要求することを決定し、」との決定内容は知らないが、その余は認める。

同(1)<7>の事実は認める。

同(1)<8>の事実中、「外来勤務員は、その勤務の性質上、一斉に昼休みをとることはできず、」との点及び「病院が従来からこの時間帯に行われていた組合の集会について、上記のような警告書を発した例は認められない。」との事実は認め、その余は否認する。

同(2)<1>の事実中、「検討中等を理由にこれに応じなかった」との事実は否認し、その余は認める。

同(2)<2>の事実は認める。

同(2)<3>の事実中、「組合は翌九日に予定していたストライキ」との事実は知らないが、その余は認める。

同(2)<4>の事実は認める。

同(2)<5>の事実中、「過去の闘争時に若干就業時間にも食い込む昼休み集会が開かれたことがあるが、これに対して病院が警告や注意をしたことはなかった。」との事実及び病院(原告病院)が三日の間に注意を与えていないとの事実は認め、その余は否認する。原告病院は五月一〇日直ちに三日間の集会に対する注意書(警告書)を支部組合に交付して注意を与えているのである。

(4) 4(争議に対する警告)(1)<1>の事実は認める。

同(1)<2>の事実は知らない。

同(1)<3>の事実は認める。

同(2)<1>の事実中、「五月六日から同月一二日までの間、時間外勤務、宿日直拒否闘争に入った。」との事実は認めるが、その余は知らない。

同(2)<2>の事実は認める。

(5) 5(脱退勧誘)(1)の事実中、斉田倫子が看護婦長、田中剛二及び浦野隆がいずれも医長であり、木口わか子、長谷川直子、五十嵐和佳子及び北村美子がいずれも看護婦であることは認め、その余は知らない。

同(2)の事実は認める。

同(3)の事実中、「田中剛二は内科の医長であり、浦野隆は小児科の医長である」こと、医長という職種が一種の院内資格であること及び田中剛二及び浦野隆が運営会議の構成員であったことは認め、その余は否認する。

但し田中剛二、浦野隆は済生会中央病院労働組合(以下「新労」という。)結成以降は運営会議の構成員から外れている。また医長は当然に運営会議の構成員となるものではなく、右田中、浦野も新労の組合員資格を有し、新労結成後は新労に加入しているのであるから、管理職とはいえない。

(6) 6(「お知らせ」の配布)(1)の事実中、「同月二七日頃に大会を予定し、検討中であるとしてこれに応じなかった。」との事実は否認し、その余は認める。

同(2)の事実は認める。

(7) 7(新賃金の支給遅延)の事実は認める。

(8) 8(チェック・オフの中止)(1)の事実は認める。

但し、通知書には「なお貴支部組合において対象者を明確にされればチェック・オフすることにやぶさかではありません。」と記載されている。また通知書を交付したのは多数の従業員からチェック・オフ中止申入れが突然なされたためである。

同(2)の事実中、「病院が確答を避けたため調印には応じず」との事実及び「八月一五日に組合員名簿を添えてチェック・オフの再開を求めたが、病院はこれに応じなかった。」との事実はいずれも否認する。前者については、原告病院は労使交渉の中で明確に説明し、組合側も案文の字句の詰めまで話し合ったが、最終的に支部組合から回答がないことから立消えとなったものであり、後者については、原告病院は八月一八日理由を付した明確な回答をもって積極的にチェック・オフ協定の調印を申し入れているのである。

同(3)の事実中、支部組合が組合員名簿を提出したことは認めるが、原告病院がチェック・オフを拒否したとの事実は否認する。原告病院はチェック・オフ協定の締結を求めたのである。

(9) 9(過払手当金返還問題)(1)の事実は認める。

同(2)の事実中「上記立場を固執し、」との事実は否認し、その余は認める。

同(3)ないし同(5)の事実はいずれも認める。

同(6)の事実中、過払問題の対象者が四八名であったこと及び年末一時金を受け取った後に退職した者が二十数名あったことは認め、当時の組合員数が一八〇名であったとの事実は否認し、その余は知らない。

同(7)の事実は認める。

(二) 原告らの主張

(1) 救済命令の名宛人について

救済命令が法律上意味を有するためには、その名宛人に独立の権利義務の主体となりうる能力が備わっていなければならない。ところが本件命令はそのような能力のない原告病院を名宛人としている違法がある。即ち初審命令の名宛人は原告済生会と原告病院になっており、被告は本件命令において再審査申立を棄却することによって初審命令を維持している。ところで、原告病院は、原告済生会の従たる事務所である済生会支部東京都済生会の管轄の下にある単なる一施設にすぎず、独立した法人格を有せず、権利義務の主体たり得ないのである。

したがって、原告病院を名宛人とする部分は違法である。

(2) 二重申立について

本件命令は原告らが被告の審問手続においてなした二重申立の主張に対する判断を遺脱したばかりか、補助参加人らのなした救済申立が二重申立であるにもかかわらず却下せずに認容した初審命令をそのまま維持したものであって違法である。即ち全済労と支部組合とは後者が前者に取り込まれており、一つの団体の一部にすぎないことは疑問の余地がない。このような関係にある両者が行った本件救済申立は、実質上一個の組合が同時に同一内容の救済申立を二件以上提起した場合と同じく二重申立となる。

したがって、被告は各補助参加人につきそれぞれ特別の救済利益が存するなどの認定判断をしていない以上、当然に却下すべきであるにもかかわらず、これをなすことなく救済命令を発しているものであって、違法である。

(3) 職場集会に対する警告について

被告の判断は、以下の三点において不当労働行為に関する法律解釈適用上の誤謬を犯し、それらの誤謬によって本件命令の判断結果に至ったものであって、違法である。

<1> 使用者の表現の自由

原告らもまた憲法二一条の保障する表現の自由を享受しているのであり、不当労働行為制度の運用に当たっても、使用者の表現の自由が実質的に剥奪されたり、過度に制限されるようなことがあってはならない。そして使用者の表現が不当労働行為と評価されるためには、その表現が事実の報道、意見や見解の表明にとどまらず威嚇、脅迫ないし利益誘導等のプラスファクターを具体的に含むことが必要なのである。

しかるに、本件命令は、昭和五〇年四月五日付の警告書について何ら右にいうプラスファクターの存在も認定せずに交付したことを不当労働行為に該当するとしており、また同年五月一〇日付の警告書については「処分を暗示した厳重なもの」と判断しているものの、この程度の処分の暗示が右にいうプラスファクターの具体的内容とは到底認められない。しかも原告らは何らの処分もしていないのである。

以上のとおり、本件命令は原告らの表現の自由を侵害し、違法である。

<2> 支部組合の違法な組合活動

支部組合によって行われた昭和五〇年四月二日及び三日の各職場集会並びに同年五月六日、七日及び九日の各職場集会はいずれも正当な組合活動ではなく救済の対象とならないものである。したがって、これらの集会に対して原告病院が警告を発したことは全く正当な表現活動であって、およそ不当労働行為には当たらない。

(イ) 集会の違法性

支部組合の各職場集会は以下の点でいずれも正当な組合活動とはいえず、救済の対象とはなり得ない。

(a) 就業時間中の職場集会

原告病院における外来勤務員の就業時間は午前八時から午後四時までであり、途中正午から午後一時までが昼休み時間であるところ、昭和五〇年四月二日及び三日の職場集会はいずれも就業時間中である午後三時四〇分から、また同年五月六日、七日及び九日の職場集会は午後一時からの就業時間に六日には二九分、七日には一一分、九日には五分それぞれ食い込んで実施されたものであり、このことにつきいずれも原告らの許諾を得ていなかった。

このように就業時間中の組合活動は原告らの許諾がない限り許されないものであるから、本件各職場集会は正当な組合活動とはいえない。

(b) 病院施設内での組合活動

本件各職場集会はいずれも原告病院の施設である元空腹時血糖室、テニスコートを利用して実施されたものであり、そのいずれにおいても管理者である原告らの許諾を得ることなく使用したものである。

このような使用者の管理する施設を利用して行う組合活動については、使用者が利用を許諾しないことが権利の濫用となるような特段の事情ない限り、当該施設を管理運営する使用者の権限を侵し正当な組合活動とはいえないのである。そして本件においても、右特段の事情は存せず、本件各職場集会はこの点においても正当な組合活動とはいえないのである。

(ロ) 原告病院の対応措置の相当性

支部組合の右のような違法な職場集会に対する対応措置は警告書の交付という穏当な方法でなされているのであって、この点からも警告書交付の正当性が肯認されるべきである。

<3> 悪慣行の是正

仮に就業時間中に職場集会がなされたことを原告らが黙認してきたことから慣行が成立したとしても、その慣行は右の如く違法なものであるので、これを是正しようとした警告書の交付は正当な行為であり、何ら不当労働行為を構成しない。

(4) 争議に対する警告及び労務情報の配布についての判断について

被告は、本件命令において、昭和五〇年四月八日における支部組合のストライキ権確立手続が組合規約等に違反していることを指摘した原告の警告書及び労務情報を原告が配布した行為を不当労働行為であると判断しているが、これは以下の点で重大な誤りを犯しており、違法な命令として取り消されるべきである。

<1> 本件命令は組合規約に反し、ひいては労働組合法五条二項八号に違反したストライキ権確立手続を適法と認める誤りを犯している。

(イ) 委任状による出席

本件大会決議当時の支部組合の組合員数は三四四名であり、大会の出席者は委任状によるものを含めて、開会時二二五名、ストライキ権確立投票時一六二名であった。そして右投票は賛成六六票であったがその時の委任状を除く出席者は約九八名であった。ところが支部組合の規約二四条には委任状による出席を認める旨の記載はなく、また同条が委任状による出席を許容する旨改正された事実も存在しない。したがって、本件ストライキ権確立手続は委任状による出席によってなされた大会でなされた点において規約に反しており、大会決議に重大な瑕疵がある。

(ロ) 大会の定足数

支部組合規約二四条は大会の定足数を組合員数の二分の一以上の出席と定めている。もとより定足数は開会時に充たされればよいというものではなく、本件の如くストライキ権確立投票時の出席者は委任状を含めて一六二名であって組合員数三四四名の半数に充たない場合には、同二四条に違反している(なお、議決時に過半数の出席は不要であるが議案の可決には成立当初の出席者数の過半数の賛成を要すると解しても賛成投票六六票では右要件を充たさない。)。

<2> 争議通知の無効ないし不存在

(イ) 昭和五〇年四月九日付でなされた支部組合から原告病院になされた争議通知は右の如くストライキ権確立決議に重大な違法があり、決議不存在ともいえるので右決議に基づいてなされた争議通知自体も無効なものである。しかも、ストライキ権確立決議が存在しないとすれば支部組合代表者渡辺キヌ子には通知を発する権限すらなかったことになり、右通知は支部組合の通知ということすらできないものである。

本件争議通知は、以上の理由により争議通知として無効ないし不存在といわざるを得ず、労働関係調整法三七条所定の手続を履践したものとはいえない。

(ロ) そして労働関係調整法三七条にいう争議行為の予告は個々具体的行為としての争議行為の予告である。しかるに本件通知は争議行為の種類として「ストライキ、怠業その他あらゆる形態の争議行為」とし、その日時も「昭和五〇年四月二〇日以後本問題の完全解決に至る期間」とするのみでいずれも具体性、特定性を欠き、労働関係調整法三七条の要件を具備していない。

<3> 被告は本件ストライキ権確立手続を「組合規約違反の疑いはあるが」としながら、それを組合内部の問題であって使用者が容喙すべき事柄ではないと判断しているが、これは以下に述べるとおり誤りである。

(イ) 被告は組合内部の問題であることから当然に批判の対象にならないとするが、前記のとおり使用者にも表現の自由があり、その範囲内での組合批判は当然にできるのであって、右被告の判断は誤りである。

(ロ) そして、組合規約違反の行為が組合内部の問題であって使用者の容喙を許さない部分があるとしても、それはその事項が純粋に組合内部にとどまるか、その影響が使用者に及ばないものである範囲に限られるべきであって、ストライキの如く直接使用者に向けられ、直接その影響をうけ損害を蒙るような行為についてまで批判の対象にならないということはできないというべきであり、本件はまさにストライキに関する問題なのである。

(ハ) またストライキが違法・不当な場合使用者は制裁を加え、損害賠償を請求することが許されるのであり、したがって、使用者が組合に対し正当でないストライキを行うことがないように申し入れ、警告することは当然許されるのであって、何ら容喙には当たらない。

<4> 被告は昭和五〇年四月一六日付労務情報について責任追及や損害賠償請求を内容としている点をとらえて、争議行為抑圧のための威嚇であると判断している。しかしおよそ違法不当な争議行為が行われたときは免責が失われ、使用者が責任追及や損害賠償請求をなし得ることは労働組合法七条、八条にも明らかなことであり、これと同じことを予告しているにすぎない原告の右行為は威嚇にならないこと明らかである。

(5) 組合員に対する脱退勧誘について

被告の脱退勧誘に関する判断は、いずれも原告らの関知しない事実を基礎に判断しているもので事実認定自体に誤りがある。

それのみならず、本件命令は以下のとおり医長について管理者性を認め、その行為を直ちに原告らの行為と看做す誤りを犯している。

<1> 本件命令は医師を看護婦の上司であると認定しているが誤りである。

医師は医療業務の遂行中看護婦に対して指揮命令権を持つが、これは医療業務の本質によるものであって、このことから当然に医師が看護婦に対し身分上、人事上の指揮監督権を有するものではない。このような指揮監督は、医師は医師の、看護婦は看護婦のそれぞれの系列において職制上の上下関係に従ってなされるのである。

<2> 本件命令は田中剛二、浦野隆両医長が運営会議の構成員であったことをもって管理者の一員であると認定しているが誤りである。運営会議は各職域を代表する者をもって構成されており、右二名は職域代表の立場で同会議に参加しているにすぎず、医長であるから構成員となっているのではない。しかも医長は元来組合員資格を認めてもよい程度の地位であり、新労結成後は右二名の医長はこれに加入したのである。

したがって田中剛二、浦野隆両医長が運営会議の構成員であるからといって使用者側の一員と認めるのは誤りである。

(6) 「お知らせ」の配布について

本件「お知らせ」が配布された当時、原告病院内に新労が結成されて間がなく、組合員の支部組合からの脱退通知が原告病院になされるなど、従業員の組合所属が混沌としていた時期であり、しかも賃上げについて支部組合とは未だ妥結に至っていなかったので、賃金についても支部組合員とその他の従業員との扱いを異にせざるを得ず、その範囲を明らかにするため、「お知らせ」を配布したのであって、何ら不当労働行為と評価されるいわれのないものである。

(7) チェック・オフの中止について

被告は原告病院がチェック・オフを中止したことをもって不当労働行為であると判断するが右判断は誤りである。即ち原告らと支部組合との間にはチェック・オフに関する書面による協定はなく、従来慣行的になされてきたものにすぎないのである。したがって、原告らは支部組合にチェック・オフをなすべき義務を負わないばかりか、チェック・オフをするとすれば労働基準法二四条に違反し罰せられることにもなるのである。したがって、原告病院がチェック・オフを中止したことは当然であって、何ら不当労働行為に該当しない。

(三) チェック・オフに関する救済命令主文について

(1) 救済命令主文の不明確性

救済命令の主文は一義的に確定した内容のものでなければならないところ、本件命令が維持した初審命令の主文第三項は命令をうける原告病院がいつまでチェック・オフ義務を負うのか定かでなく主文として不完全であって内容が特定されていない。

(2) 裁量権の濫用

本件チェック・オフは前記のとおり原告らは私法上何ら義務を負うことがないことから中止されたものであり、しかもチェック・オフ自体経費援助の色彩が濃厚で好ましいことではないことからすれば、チェック・オフの再開を命ずることはそれ自体裁量権の範囲を超えるものといわざるを得ない。また、仮にチェック・オフの中止をもって不当労働行為に当たるとしても、救済命令の内容がポストノーティス以上に出るのは、明らかに裁量権を逸脱するものである。

3  よって、原告らは本件命令の取消しを求める。

二  請求の原因に対する認否(被告)

1  請求の原因1の事実は認め、同2は争う。

2  本件命令は適法に発せられた行政処分であって、処分理由は別紙(二)の命令書の理由のとおりであり、被告の認定した事実及び判断に誤りはない。

三  補助参加人らの主張

1  原告病院の当事者能力について

支部組合は結成以来今日まで要求提出や団体交渉の申入れを原告病院に対して行ってきたのであり、原告病院もこれを受けて団体交渉に応じ回答をなすなどしてきた。ことに賃金問題について原告病院が独立採算制を採っていたため独自に回答し、その間で妥結したのであり、労働協約も原告病院との間で締結している。被告はかような実情を尊重しつつ実際的解決を図ったのである。そして、法律的には原告病院に訴訟能力がなく、その効果が及ばないとしても、その部分は実質上原告済生会に対して発せられたものとして取り扱うべきである。

2  二重申立について

全済労と支部組合とはそれぞれ独立した労働組合であり、支部組合に対してなされた不当労働行為は単に同組合に対して加えられただけにとどまらず全済労にも及ぶのであって、それぞれに救済利益が存在する。したがって補助参加人らはそれぞれ申立適格を有し、二重申立には該当しない。

3  職場集会に対する警告について

(一) 原告らの表現の自由について

昭和五〇年四月五日付及び同年五月一〇日付の各警告書は、原告らのいう事実の報道、意見や見解の表明ではなく、責任追及の権限を留保した警告であって、これは将来懲戒処分や損害賠償責任等の責任追及もあり得ることを意味していること明らかであって威嚇あるいは不利益の明示若くは暗示であること論を俟たない。

(二) 職場集会の正当性について

(1) 昭和五〇年四月二日及び同月三日の集会について

この集会は原告病院の作成した新勤務表が労働条件の著しい変化をもたらすものであったことから急拠対策を講ずる必要があったことから行われたものであり、場所も急患室の隣であって急患があれば直ちに対処できる場所であり、時間的にも外来勤務者が休憩をとれる午後三時以降に実施したもので、しかも業務のある者は出席せずあるいは急患があれば集会を中止するという指示を出すなど業務への影響を十分考慮して行っているのであるから、その目的、態様からみて非難されることは全くない正当な組合活動である。

(2) 昭和五〇年五月六日、七日及び九日の集会について

昭和五〇年五月六日、七日及び九日の各昼休みの集会が就業時間に食い込んで実施されたが、これは当初から予定したものではなく、偶々食い込んでしまったものであり、業務に支障のある者は参加していないのであって業務への影響は全くなかった。しかも原告らは従来支部組合の集会が就業時間にある程度食い込むことを黙認していた経緯もあり、本件昼休み集会が就業時間に食い込んだものであっても、その態様、原告らのこれまでの対応からみて何ら非難されるべきことはなく、正当な組合活動と認められるべきである。

更に永年労使ともども認め合ってきた労使慣行については、特に新たにその慣行を認めることによって不利益が生ずるような場合を除き労使慣行を尊重すべきである。本件で原告病院が同年五月一〇日付警告書で指摘した就業時間内に及ぶ集会は右のとおり業務への配慮を十分行っていたのであって従来からも問題視されなかったのであって原告ら主張の如き不合理、悪慣行というものではない。

(三) 争議行為に対する警告及び労務情報の配布について

(1) 労働組合法五条二項八号違反の主張について

労働組合法五条二項八号の規定は組合員の意思を民主的に反映させる措置として労働組合の資格要件とした規定である。したがって、本条違反の効果は労働組合法上の組合資格が与えられないのであって、争議行為等の組合のとる行為の法的評価の基準になるものではない。

また原告の警告書や労務情報が、右の法条に基づく支部組合規約に違反するという意味で違法という趣旨であったとしても、組合規約に違反する争議行為が直ちに違法となるものではない。

(2) 原告らの意図

原告らの警告書等が単に違法な行為に対する警告の趣旨であったとすれば、補助参加人らに対してその旨通告すれば足りるのであって、本件の如くさらに労務情報をもって全従業員に知らしめる必要は全くないのであり、しかも原告らは支部組合が現実にストライキを実施する際には改めて全組合の直接無記名投票によって賛否を決めていることは十分知悉していたことからすれば、原告の意図は、むしろ警告書等によって組合員を動揺させてストライキを阻止するために採った処置といわざるを得ない。

(四) 組合員に対する脱退勧誘について

原告らは、医長は管理者とはいえない旨主張するが、医長とは各科の医師の長であり、医師自体看護婦に対し医療業務の指示を与える関係上「上司」としての意識を持っているため、その看護婦に与える影響力は大きいものであって医長はその医師の長ということでより以上の影響力を持つと認められ、しかも医長は原告病院の最高運営機関である運営会議の出席資格となっており、一般企業でいえば取締役会出席資格のある部長、専務という職制に匹敵するものである。

本件で問題となった田中剛二、浦野隆はいずれも医長であり、現に運営会議の構成員であって、管理者性は十分ある。

(五) 「お知らせ」の配布について

本件「お知らせ」は支部組合と原告病院が賃金問題を交渉中、原告病院が支部組合の頭越しに一般組合員と直接交渉することを申し入れているものであって、このことが組合無視、団体交渉権の否認にあたり、不当労働行為にあたること明らかである。

(六) チェック・オフ中止について

(1) チェック・オフと労働基準法二四条の関係について

原告ら主張の如く原告らと支部組合との間に書面によるチェック・オフ協定は存在せず、チェック・オフを行うことは形式的には労働基準法二四条違反の問題が生ずる。ところで、労働基準法二四条は個別的な賃金債権一般の保護を目的とする規定であって団結権の作用であるチェック・オフとは根本的に性格が異なり、チェック・オフは労働基準法二四条に抵触することはないと解すべきである。したがって、従前慣行として行われてきたチェック・オフが労働基準法二四条に違反するとの原告らの主張は理由がない。

(七) 救済命令主文について

(1) 原告らは本件命令によって維持された初審命令主文第三項のチェック・オフの再開を命ずることは裁量権の濫用であると主張するが、チェック・オフの中止が不当労働行為に該当し、しかも原告らが支部組合との間で合理的な理由なくチェック・オフ協定を締結しない現状では、救済方法として従前なされてきたチェック・オフの再開を命ずることが現実的であって裁量の範囲を逸脱したものとはいえない。

(2) 原告らは救済命令主文第三項は終期の定めもなく内容が不明確である旨主張するが、原告ら主張の如き不明確性はない。即ち原告病院は命令通りの履行を行い、将来何らかの事情の変更例えば新たな労使間の合意や組合の消滅といった事情が発生した場合に、チェック・オフを中止すればよいのであって、その中止の事由は不確定でありあらかじめそれらを記載することは却って明確さを欠き混乱を生じかねないのであって、かような終期を記載しないからといって不明確ということはできない。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第一原告病院の訴訟当事者能力について

(人証略)によれば、原告病院は法人である原告済生会の下部組織である支部の一つ社会福祉法人恩賜財団済生会支部東京都済生会(以下「東京都済生会」という。)の経営にかかる一施設にすぎず、民法上の権利能力を有する者でないことが認められ、この認定に反する証拠はない。ところで、法人の構成部分の一部である組織体がそれ自体独立の権利義務の主体となり訴訟当事者能力を取得するためには特に法律の規定をもってその旨定めるとか、民事訴訟法四六条所定の要件を備える必要があると解せられるところ、本件では原告病院に訴訟当事者能力を認める特段の規定は存せず、また原告病院が民事訴訟法四六条所定の要件を充たしているとも認められないので、結局、原告病院は訴訟当事者能力を有しないものというべく、したがって、原告病院の本件訴は不適法として却下を免れないものである(最高裁判所第三小法廷昭和六〇年七月一九日判決、労働経済判例速報一二二八号四頁参照)。

第二原告済生会の請求について

一  請求の原因1の事実は原告済生会と被告との間で争いがない。

ところで、本件命令は、原告病院を名宛人とする救済命令を含む初審命令を維持した命令であるところ、原告病院は前説示のとおり原告済生会の組織の一部を構成する支部である東京都済生会の一施設にすぎず、法律上独立した権利義務の主体とはいえないので、労働組合法二七条及び七条にいう「使用者」に該当せず、したがって、初審命令及びこれを維持した本件命令は本来名宛人となり得ない者を名宛人として発した命令といわざるを得ない。しかし、原告病院は原告済生会の一組織である東京都済生会の一施設としてこれと一体となっているものであり、法人である原告済生会以外に使用者に当たるべき者は存在しないのであるから、原告病院を名宛人としている部分は実質的には原告済生会を名宛人としこれに対して命令の内容を実現すべきことを義務づけている趣旨と解するを相当とし、したがって、本件命令によって維持された初審命令の主文第一ないし三項は原告済生会に対し発せられたものとして、また主文第四項は原告済生会に対してのみ発せられたものとして、原告済生会は当然にこれら原告病院を名宛人とする部分についてもその取消しを求める法律上の利益があるものというべきである(前掲最高判決参照)。

なお、以上のとおりであるから、以下において原告病院の行為として説示、認定するところはいずれもその効果の帰属主体は原告済生会であるというべきである。

二1  当事者等

以下の事実は当事者間に争いがない。

(一) 原告済生会は医療機関等の社会福祉施設を設置して社会福祉事業を行うことを目的としているものであり、全国各地に支部を置いて事業経営を分担させ、本部は各支部の運営事業について企画、指導、連絡の任に当たっている。そして原告病院は本部の一支部である東京都済生会が設置経営する病院であり、その従業員に対し労務管理を行っている。

(二) 全済労は、原告済生会関係の従業員が組織する二八の労働組合をもって構成する連合体の労働組合であり、支部組合は原告病院及びその付属施設の従業員によって組織される労働組合である。

(三) なお、原告病院には、支部組合のほかに新労がある。

2  職場集会等に対する警告について

原告済生会は、原告病院が支部組合の集会に警告書を交付したことについて、このような警告書の交付は、支部組合が違法に繰り返していた集会を是正するために、使用者に与えられた表現の自由の範囲内でしかも相当な方法で行っているので何ら不当労働行為に当たらない旨主張し、被告の判断を争うのでこの点について判断する。

(一) 昭和五〇年四月五日付警告書の交付について

原告済生会と被告間に争いがない事実、(証拠略)によれば以下の事実が認められ、右の認定を覆すに足りる証拠はない。

(1) 原告病院は、従来から、急患室の看護婦不足を補うため、アルバイト勤務と称して外来看護婦の応援を求め、毎月二五日頃に翌月の勤務表を作成して、当該外来看護婦にその勤務表に従った勤務を割り当てていた。

この勤務表は外来看護婦が事前に都合を申し出ない限り、当該外来看護婦の同意を得ることなく、原告病院が一方的に作成し、しかも一たんできあがってしまうと概ねその通りの勤務に服するのが実情であった。

(2) 原告病院では、昭和五〇年三月頃看護婦不足が甚だしくなり看護婦の遣り繰りがつかなかったことから同年四月分の勤務表の作成が遅れ、しかも同年三月二七日になって作成された勤務表には、従来外来看護婦になかった午後一一時から翌日午前八時までの深夜勤が導入され、また午後四時から午後一一時までの夜勤の回数も増加した勤務が予定されていた。

外来看護婦の通常の勤務時間は午前八時から午後四時までとなっているところ、深夜勤を行い翌日外来の通常勤務を行えば午後一一時から翌日午後四時までの勤務となって過重なものになる可能性があった。

(3) そこで支部組合は、昭和五〇年三月二八日午後三時三〇分頃から、右勤務表について協議するため、外来看護婦ら二十余名を急患室に隣接した元空腹時血糖室に集めて職場集会を開いた。

(4) その後同年四月一日、原告病院は支部組合との間で労働協議会を開催した。その席上、原告病院は外来看護婦の急患室勤務はアルバイトであることを確認した。これに対し支部組合は任意に右勤務表に応ずることはできないと主張し、右勤務表に基づく急患室勤務を拒否することにした。

(5) 次いで支部組合は、原告病院が病棟看護婦を急患室勤務に補充する動きを示したこともあって、同月二日及び三日いずれも午後三時四〇分から右元空腹時血糖室でこれまでの経過報告とともにその後の対策を協議するため、外来看護婦らを集めて、職場集会を開き検討した。

(6) そうして、支部組合は、同月三日付で原告病院に対して三交替勤務に必要な急患室勤務の看護婦の増員を要求した。

(7) これに対し、原告病院は、同月五日、支部組合に対し本件命令第一3(1)<7>記載のとおりの「警告並びに通知書」を交付した。

(8) 支部組合が右四月二日、三日の集会をいずれも就業時間内である午後三時四〇分から開催したのは、外来看護婦ら外来関係の勤務者については午前中の診療が正午までに終ることはなく、通常の正午から午後一時までの昼休みが現実にはとれず、結局午後の診療が一段落し休憩時間のとれるのが右午後三時すぎであったことからこの時間に行うことにしたのであり、また終業後とすると外来看護婦の中に保育所に幼児を引き取りに行かなければならない者もいたことを考慮したためである。そしてこの集会に参加した者はいずれもその時間に業務のない者であり、しかも途中業務の発生した者は中座して業務に就いているのである。また集会の場所を元空腹時血糖室に選んだのも、ここが急患室隣りであって急患室業務の必要が生ずれば直ちに対応できるとの配慮からであった。

なお支部組合が右各集会を開くにあたって原告病院に届け出たり許可を得たことはないが、従来この時間帯にこのように届出も許可もなく集会を開催しても、原告らから警告や注意を受けたことはなかった。

以上の事実を基礎に検討するに、本件各職場集会はいずれも勤務時間中に原告病院に届け出ることも、その許可を受けることもなくその施設を利用して行われたものであって、いずれも支部組合が原告らの許諾なくなし得るものではなく、これら集会に対し使用者は権利の濫用と認められる特段の事情のない限りその中止を求めたりすることができるものと解するを相当とする。そこで、本件にそのような特段の事由が存するか否かについて検討するに、本件各集会は原告病院が外来看護婦の急患室勤務の負担を加重する勤務表を作成したことに端を発し、四月一日時点で原告病院との間で一応の決着はみたもののなお原告病院側の対応をめぐって対策を協議するために職場内で協議する必要から開かれたものであって、その開催された時間帯も事実上休憩時間と目される時間帯であり、業務や急患に対応しうるように配慮された方法で行われ、現実に業務に支障が生じていないこと、従来本件と同様の態様でなされた集会について原告らは何ら注意を与えていないことが認められ、これら事情は、本件各集会が終業時間後に開催しなかったのが外来看護婦の中に保育の必要性がある者がいたにすぎないものであったとしても、なお前記の特段の事由に該当するものというべきであり、本件職場集会をもって違法ということはできない。そして、これら本件集会の右の目的、必要性、態様等に照らし原告病院の行った警告の内容は責任追及を暗示するものであって相当性の範囲をこえ、表現の自由の範囲外であること明らかであるというべきである。そして右警告書の交付をもって支部組合及び全済労に対する支配介入と判断した被告の認定に誤りはなく、原告済生会の主張は理由がない。

(二) 同年五月一〇日付警告書について

原告済生会と被告間に争いのない事実、(証拠略)によれば、以下の事実が認められ、右の認定を覆すに足りる証拠はない。

(1) 支部組合は、昭和五〇年三月三日、原告病院に対し、同年四月一日から基本給の二五パーセントに一律一万円を加えた賃上げその他を要求し、同月二〇日までにその回答を求めた。原告病院は回答期限の延期を求め、さらに同要求についての支部組合からの団体交渉の申入れに対しても検討中を理由にこれに応じず、同月二四日に至り支部組合と団体交渉を行ったが、賃上げについて平均一万一二六八円賃上げ率一〇・四一パーセントを最初にして最後の回答と表現して支部組合に提示した。

(2) 支部組合は原告病院の右回答を不満とし、同月三〇日の団体交渉においてこれを拒否したところ、原告病院は同年五月六日の団体交渉において支部組合が争議行為を行わないことを条件として二〇〇〇円の上積みと看護婦の夜勤手当の増額を認める案を提示したが、支部組合はこれをなお不服として拒否するとともに、原告病院に対し同日午後六時から時間外勤務、宿日直拒否闘争に入ることを通知した。そこで原告病院は上積み回答を撤回した。原告病院は同月七日「労務情報」を全従業員に配布して「平和的解決の条件拒否さる。」との見出しのもとに右経過を公表した。

(3) 支部組合は同月八日原告病院と再度団体交渉を行ったが、六日に提案された上積み案以上の案は出ず、交渉は進捗しなかった。賃上げ交渉は進捗しなかったが支部組合はなお団体交渉による解決を図るため、翌九日に予定していたストライキを回避して交渉を続け、結局同月二八日支部組合は右六日の上積み案を受け容れて賃上げ問題は解決するに至った。

(4) この間支部組合は五月六日、七日及び九日の各一二時三〇分から原告病院構内のテニスコートを使用して春闘集会を開いたが、いずれも就業時間の午後一時を過ぎ、六日は二九分、七日は一一分、九日は五分を超過した。そこで原告病院は同月一〇日支部組合に対し、右集会について本件命令第一3(2)<4>記載のとおりの警告書を交付した。

(5) なお、本件各昼休み集会には病棟看護婦のうち、業務のある者や外来看護婦等業務に支障のある者は出席せず、また集会中でも業務のある者は自由に退出していた。また本件各昼休み集会ではマイクを使用する等して行っていたが、集会を行うことについて原告病院の許可や届出は行っていなかった。しかし、過去の闘争時に若干就業時間に食い込む昼休み集会が開かれたことはあるが、これに対して原告病院が警告や注意をしたことはなかった。

右事実を基礎に検討するに、労働者や労働組合が使用者の許諾なく当然に使用者の施設を利用し、また就業時間中組合活動を行い得るものではなく、使用者が労働者らの就業時間中の施設を利用しての集会に対し中止を求める等の措置を採ることは権利の濫用と認められる特段の事情のない限り許されるものというべきことは前説示のとおりであり、本件各昼休み集会はいずれも就業時間中にマイクを使用して原告病院の施設を利用しているものではあるが、本件各昼休み集会はいずれも昭和五〇年度の賃金引上げ等の団体交渉が難航している最中に行われたものであって、集会がこの時期にもたれることに十分な必要性があったこと、集会は原告病院の施設を利用するものではあるが、それはテニスコートであって病院業務に直ちに影響を及ぼす場所とはいえないこと、また集会は就業時間中に開かれたとはいうものの、昼休み時間内に終了せずに偶々就業時間に食い込んだものであって、その程度も大幅なものではないこと、また集会参加者は業務に支障のない者であり、途中支障があれば自由に退出するなど業務への影響を配慮していること、過去かような集会に対し原告病院が注意等を与えたことがないこと等右集会の目的、必要性、態様等に照らすとこれら事情は右権利濫用と認められる特段の事情に該当するものというべく、本件各昼休み集会をもって違法ということはできず、しかもこれら集会に対する原告病院の支部組合に対する警告書は重大な決意をもって臨む旨記載され原告病院として今後の行為に対しては処分をもって臨む強い姿勢を示す威嚇的なものであって、右集会の目的、態様に比し相当性の範囲をこえるものといわざるを得ず、表現の自由の範囲外であることも明らかである。したがって原告病院の警告書の交付をもって原告病院による支部組合及び全済労への支配介入であると判断した被告には誤りはなく、原告のこの点に関する主張は理由がない。

3  争議に対する警告について

原告済生会は、被告が原告病院の行ったストライキ権確立手続に関する警告書の交付及び労務情報の配布をもって不当労働行為であると判断した点について、右判断はストライキ権確立の大会決議が違法であるので、原告病院は警告書によって連法な行為がなされないようにしたにすぎず何ら違法な行為でないと主張するのでこの点について判断する。

原告済生会と被告との間に争いのない事実、(証拠略)によれば以下の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(1) 支部組合は前示のとおり昭和五〇年三月三日賃金引上げ等の春闘要求を原告病院に対して行い、同年四月八日臨時大会を開いてストライキ権確立を決議し、翌九日原告病院及び官公署に対して所要の争議通知をしたが、同通知書には、争議行為の種類として「保安要員を除く全部又は一部の組合員によるストライキ、怠業、その他あらゆる形態の争議行為」と、争議行為の日時は同月三〇日以後解決に至るまで連日又は短時間と記載されていた。

ところで支部組合の組合員数は当時三四七名であったが右臨時大会に出席したのは、内約一六二名であり、約六四通の委任状を併せて大会として成立したものである。またストライキ権確立の決議時の出席者数は約九八名であって、内六六名の賛成をもってストライキ権が確立された。ところで、支部組合では従前からストライキ権確立の際の投票率が低い場合やストライキ権確立後に事情の変更がある場合等にはストライキ権を行使する際改めて全員無記名投票を行うという扱いをしており、右臨時大会においても投票率が低いことから、ストライキ権を行使する際には再度全員無記名投票を行うことに決定していた。

なお、支部組合の規約上は、大会は組合員の二分の一以上の出席によって成立し、表決は出席組合員の過半数の賛成によって決定する旨定められており、委任状による出席を許容する規定は存しない。

(2) 原告病院は右大会の成立事情及びストライキ権確立手続の際の賛成投票数を数名の出席者から聞き知り、同月一六日支部組合に対し、本件命令第一4(1)<3>記載の趣旨の警告書を交付し、さらに全従業員に対して「違法ストには処分!組合に対して警告」と題した同内容の「労務情報」を配布した。

(3) 支部組合は同月二二日、二三日にストライキ権行使について全員無記名投票を行い、投票数三一三票、ストライキ権行使賛成票二四六票、反対票六四票、無効票三票の結果となった。支部組合はこの投票結果を踏まえ、昭和五〇年五月六日から一二日まで前示のとおり時間外勤務及び宿日直拒否闘争を行った。

なお原告病院は、右無記名投票を実施したこと及びその結果について十分知悉していた。

(4) そこで、原告病院は、昭和五〇年五月一〇日本件命令第一4(2)<2>のとおりの警告書を支部組合に交付した。

以上の事実を基礎に検討する。

(1) 昭和五〇年四月一六日付警告書の交付及び同日付労務情報の配布について

昭和五〇年四月九日に行われた支部組合の臨時大会は規約上必要な組合員の二分の一以上の出席という要件を当初から充たしていないこと(なお、<人証略>の供述中には支部組合規約は改定され、委任状による出席も認められていた旨の供述部分があるが、右は<証拠略>に照らしたやすく措信し難く、他に右の組合規約の改正を認めるに足りる証拠もない。)からすれば、右大会におけるストライキ権確立のための決議には瑕疵があるものといわざるを得ない。しかし、他方、ストライキ権問題について同大会は同時にストライキを行使する場合には改めて全組合員による無記名投票を行うことを決議して、組合内部での意思を担保する手段を講じ、現実に後日無記名投票が行われていること、規約上委任状による出席は認められていないものの病院勤務の特殊性から必ずしも全員が参加しえない事情からすれば委任状による出席にもやむを得ない事情も認められ、右大会で委任状による出席をもって出席者と認めたことが必ずしも不合理なものとはいえないことからすれば、右大会におけるストライキ権確立のための決議の瑕疵は重大なものとはいい難く、原告済生会主張の如く決議が不存在であるとか当然に無効であるとまでいうことはできないというべきである。そして原告済生会は右に関連して右大会決議は労働組合法五条二項八号違反である旨主張するが、右規定は組合内部における民主的運営を確保する趣旨から組合の資格要件の面で規制したものであって、支部組合もその旨の規定を有していること前示のとおりであり、しかも現実の運営も前示のとおり大会の成立に瑕疵はあるものの全員無記名投票を当初から予定する等していたことからすれば、支部組合の行ったストライキ権確立手続において民主的運営が阻害されたと認めることもできず、労働組合法五条二項八号の趣旨にも反しないものというべきである。次に原告済生会は本大会決議に基づく争議通知は、決議が不存在ないし無効であるにもかかわらず出されたものであって、しかもその内容は具体性に欠け労働関係調整法三七条に違反する旨主張するが、前示のとおりストライキ権確立のための決議が不存在ないし無効とは評価しえないうえ、争議通知を出すこと自体原告らに不利益を与えるものともいえず、右の如き瑕疵があるから直ちに争議通知を出する(ママ)ことも違法であるともいえない。また争議通知が前示のとおり具体性に欠けることは原告済生会主張のとおりであるが争議行為は争議権確立後の労使間交渉、使用者の態度等から柔軟に行う必要性のあることを考慮すると、右通知程度の抽象的記載はやむを得ないものというべきである。なおストライキ等争議行為は直接使用者に向けられ使用者に重大な影響を与えるものであるから、使用者は右争議行為をなす旨の組合決議に瑕疵があった場合これを指摘しその善処を求めることができるというべきではあるが、それは本来組合内部の問題であって組合自身の民主的自主的解決に委ねるべき筋合のものであることを考慮すると、それは決議における瑕疵が重大であって決議自体が不存在ないしは無効と目される場合に、しかも組合に対し求められるものと解される。ところで、原告病院は本件ではそのような重大な瑕疵とはいえない手続上の瑕疵をとらえて、責任追及をする旨の意思を支部組合のみならず全従業員にまで表明しているのであるから、原告病院の警告書の交付及び労務情報は全体として明らかに違法を是正するという範囲をこえ、支部組合の争議行為を抑圧し支部組合員に動揺を与えるためになしたものと認めざるを得ない。

(2) 昭和五〇年五月一〇日付警告書について

原告済生会は右警告書についても違法な争議行為に対して相当な範囲内で警告したのであって不当労働行為にあたらない旨主張するが、支部組合は昭和五〇年四月八日の臨時大会の後ストライキ権行使につき無記名投票を行い、賛成過半数の支持を得て同年五月六日から争議行為に入ったものであり、原告病院もこのような経緯を知悉していたのである。したがって、前示のとおりストライキ権確立の決議に瑕疵があったとしてもこの無記名投票によってその瑕疵が治癒したものと認めることもでき、争議通告も有効なものであるから、何ら原告らから違法の指摘を受けるいわれはなく、しかも原告病院自身このような経緯を知りながら責任追及(処分)や損害賠償を予告しているのであるから、右警告書は単に違法の是正を求めたというにとどまらず、支部組合の争議行為を抑圧せんがためになされたものといわざるを得ず、被告が警告書の交付をもって支部組合及び全済労に対する支配介入と認定したことに誤りはなく、原告の主張は理由がない。

4  脱退勧誘について

原告済生会は被告の脱退勧誘の事実を争うとともに、田中剛二及び浦野隆医長の管理者性を争うのでこの点について判断するに、原告済生会と被告との間に争いのない事実、(証拠略)の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められ、右の認定を覆すに足りる証拠はない。

(一)(1) 看護婦長斉田倫子は昭和五〇年五月一二日勤務中の支部組合員看護婦木口わか子に対し「圧力がかかるから第一組合(支部組合)を抜けなさい、すぐに第二組合(新労)に入らなくてもよい」などと述べた。

(2) 医長田中剛二は同月一四日正午すぎ、七階病棟において、当日の日勤者であった支部組合員看護婦清次田鶴子ら七名に対し新労の規約を配りながら「ストをやるのに反対し、組合(支部組合)を脱退した者と医師達で新しい組合を作った。今の組合(支部組合)はひもつきである」と述べた。

また田中剛二は同月二二日午後四時四〇分頃支部組合員である斉藤に対し「僕も組合員(新労)だから説明しようか」といって後記「お知らせ」について説明した。

(3) 医長浦野隆は同月一二日から一週間以内の頃、支部組合員看護婦北村美子に電話をかけて「君はまだ脱退しないのか」と述べた。その結果北村美子は支部組合を脱退した。

なお浦野隆は北村美子に対して上司としての意識を持って接していた。

(二) ところで、新労に支部組合の基本方針に賛同しない原告病院の一部従業員によって結成され、同月一二日原告病院に対し結成した旨通告し公然化した。

(三) 看護婦長は看護婦に対してその業務を指揮監督する立場にある職制である。

(四) 医長というのは、診療各課に属する医師の中の各科の代表者であり、医長手当を支給され当該課の医師に対して職制としての面を有する一種の院内資格である。

そして医師は診療業務を行う上で看護婦に対し指示等行うが、職制上上司に当たるものではない。

田中剛二は内科の医長の一人であり、浦野隆は小児科の医長であるが、同時に右五月当時両名とも病院経営全般にわたる審議機関である運営会議の構成員となっている。右運営会議は原告病院院長を議長とし、副院長、事務長ら原告病院における管理スタッフと外科、内科、小児科の医長の中から選ばれた者をもって構成されている。

(五) なお、支部組合は医長に組合員資格を認めていないが、新労はこれを認めている。

以上の事実を基礎に検討するに、斉藤倫子は看護婦長であって管理職に当たること明らかであり、木口わか子に対する前認定の言動内容からしてその言動が脱退勧誘に当たることも明らかである。

次に田中剛二及び浦野隆の管理者性について検討するに、同人らは内科あるいは小児科の医長であって、運営会議に参加していること、同会議は原告病院側の経営スタッフと医療の中心である医長らによって病院経営全般にわたって審議する機関であって、右両名は運営会議に参加することによって病院経営に深く関与していたものと推認せられること、医長が当然には構成員とならないとしても医長であることがその構成員資格となっているものと推認せられること、他方医師は看護婦に診療業務上の指示を出すことから、医師と看護婦の間に上下関係の意識が生じ、医師は看護婦に対して大きな影響力を有するものと認められ、その医師の各科の長である医長についてはその影響力は大きいものと推認せられ、これらのことを考え合わせると、田中剛二及び浦野隆は管理者と認むべきであり、新労がこれら二名にも組合員資格を認めたことをもってしても右認定を覆すに足りず、他にこれを左右する証拠もない。そして、右田中剛二らの前認定の言動はその内容からして支部組合からの脱退を勧誘したものであることは明らかであって、いずれも管理者の一員として原告らの意を体して行った行動と認めるを相当とする。

以上のとおりであるから、斉藤倫子らの言動をもって支部組合に対する支配介入と認定・判断した被告の本件命令に誤りはなく、原告の主張は理由がない。

5  「お知らせ」の配布について

原告済生会は、原告病院が「お知らせ」を配布したのは、支部組合員とそれ以外の者の区別が明確でなく、賃金支給のため明確にする必要があったから行ったのであって何ら不当労働行為に当たらない旨主張するのでこの点について判断するに、原告済生会と被告との間に争いのない事実及び(証拠略)によれば、本件命令第一、6、7の事実及び昭和五〇年五月に入り支部組合からの脱退者が増加し同月中に一〇〇名前後の者が脱退したことが認められ、右の認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実を基礎に検討するに、昭和五〇年五月二二日当時支部組合の脱退者が多く原告病院にとって支部組合員の範囲が不明確であったことは認められるものの、他方右「お知らせ」を配布した当時支部組合は原告病院の提示した上積み案を受け容れるか否かを決する重大な時期であり、しかも新労が結成され、また支部組合からの脱退者も相次いで出るといった状況であったこと、そして「お知らせ」の内容も支部組合所属組合員には新賃金の支給はできないことに付加して、組合員に対し直接申し出があれば新賃金を支払うというものであって、これら「お知らせ」の配布された時期、その内容を考慮すると、原告済生会主張の如く支部組合員とそれ以外の者の区別を明確にするといった趣旨をこえ、支部組合の内部に動揺を与える意図の下に配布されたものとみるのが相当であって、「お知らせ」の配布をもって支部組合及び全済労に対する支配介入に当たると判断した被告の認定に誤りはない。

6  チェック・オフの中止について

原告済生会は被告がチェック・オフの中止をもって不当労働行為と判断したことについて、チェック・オフ協定がない以上原告病院がチェック・オフをすることは労働基準法二四条に違反し、これを中止することは当然であり、またチェック・オフを中止するについて相当な理由がある旨主張するのでこの点について判断するに、原告済生会と被告間に争いのない事実、(証拠略)によれば、以下の事実が認められ、右の認定を覆すに足りる証拠はない。

(一) 原告病院は支部組合との間で明文の協定を締結することなく過去一五年余にわたって当月の組合費を当月の給与支給日である二五日に控除し翌二六日支部組合に交付するという方法で組合費のチェック・オフを行ってきた。

ところが原告病院は昭和五〇年五月二〇日頃チェック・オフを中止することを決め、同月の給料支給日である二四日(二五日が日曜日のため繰り上げ支給)、突然支部組合に対し「多数の従業員からチェック・オフを中止されるよう申し出があります……よってチェック・オフ対象者が明確になるまで当分の間チェック・オフを中止せざるを得ません、なお貴組合において対象者を明確にされればチェック・オフすることにやぶさかではありません」との通知書を交付してチェック・オフを中止した。

なお同月初旬頃から支部組合からの脱退者が出始め、同月中に約一〇〇名前後の者が脱退し、六月中にも相当数の脱退者があったが、その後は大量の脱退者は出ずに減少してはいるものの落ち着きをみせている。

(二) 支部組合は原告病院に対して、一方的に突然チェック・オフを中止したことに抗議するとともに、同年六月七日組合員を同年四月以前からの組合員、同年五月までの組合員、新加入者に三分した名簿を提出して、六月分給与から五、六月分の組合費をチェック・オフすることを申し入れたが、原告病院は同月一六日名簿中に脱退してチェック・オフの中止を求めている者が含まれていることを理由に全員についてのチェック・オフを拒否した。そして支部組合は同月一九日脱退の有無について確認した上で同様にチェック・オフの申入れをしたが、原告病院は同月二五日五月分については給与支給済みであり、六月分給与についてはコンピューター処理済みであるという理由でこれを拒否した。

その後、原告病院は、同年七月八日に至り新労に提案したものと同一内容のチェック・オフ協定案を支部組合に提示しその調印を求めたが、支部組合はその協定書案第一項但し書の「資格等について控除に異議又は疑義あるときは控除を行わないことがある。」という文言について原告病院に釈明を求めたところ原告病院は、疑義を持つ者が一人でもいれば全員についてチェック・オフを行わないこともあり得ると解(ママ)答したことから、これを納得できないとして調印するに至らず、また支部組合もチェック・オフを再開することがチェック・オフ協定締結の前提であると主張してその間でチェック・オフ協定の締結に至ってはいない。

支部組合はその後も組合員名簿を添えてチェック・オフの再開を求めたが、原告病院は組合員名簿の疑義中途脱退者の扱いが不明瞭であること、更にはチェック・オフ協定不成立を理由にチェック・オフを全員について拒否した。そして、この間、支部組合は、原告病院に対し名簿上の疑義について具体的に指摘して欲しい旨申し入れたが、二名の退職者が記載されていることを指摘したにとどまり、その他疑義ある者を具体的に明らかにすることはなかった。

以上の事実を基礎に検討するに、原告病院は支部組合との書面による合意がないまま、一五年間にわたり支部組合のためにチェック・オフを行ってきたことが認められる。ところで原告済生会は右チェック・オフは労働基準法二四条に違反している旨主張するのでこの点について判断するに、右労働基準法二四条は賃金が労働者にとって重要な財源であって日常必要とするものであり、確実に金(ママ)額受領させることによって、その生活に不安のないようにし、また一部留保されることによる事実上の拘束から労働者を保護するために設けられたものであって、書面による合意もその明確性を担保するものであって労働者保護のためのものであることは明らかである。そしてチェック・オフは本来組合が行うべき組合費等の徴収を組合に代って使用者が行いこれを組合に渡す一種の便宜供与ではあるが、組合にとってみれば個々に集める時間的労力を省き、また確実に組合費等を徴収できることから組合財政を確固たるものとすることができるので、組合の団結権の確立に帰(ママ)与し、延いてはそれが労働者の団結権保護に資することになるのである。このように労働基準法二四条も、チェック・オフもいずれも労働者を保護するためのものであることからすると、チェック・オフが書面によらない合意によるものであったとしても、右二四条の趣旨には反せず結局同条に、牴触しないと解すべきであり、この点に関する原告の主張は理由がない。

そして一五年余にもわたるチェック・オフを一方的に中止するためには中止を相当とする合理的な理由とともに、事前の交渉や話合いによって相手の了解を得るか、相手方に不測の財政的混乱等を生じさせないような配慮が必要というべきである。ところが、本件ではなる程昭和五〇年五月から支部組合からの多数の脱退者があってチェック・オフの範囲について原告病院に疑義が生じたことは否めないものの、原告病院はチェック・オフの中止を決定するに当たって支部組合に対し何ら事前に相談もせず、また事前の通知すらしないで、一方的に給与支給日に通告をもって中止していること、その後も原告病院は支部組合と何ら了解を得るための協議もせずにチェック・オフの対象となる組合員名簿について疑義があるとだけ述べて、疑義を明らかにしようとする努力もしていないこと、しかもその後五月のような大量脱退のなくなった時期についてまで、原告病院は名簿の一部の疑義を理由にチェック・オフしていないこと、また、チェック・オフ協定についても、組合側にチェック・オフ再開が前提であるとの考えに固執している面はあるものの、支部組合の協定書案についての疑義を解明しようとの努力がみられず協定に至っていないことなどの事情を合せ考えると、昭和五〇年五月当時には原告病院にはチェック・オフを一時中止するだけの合理的理由はあったものの、その後にチェック・オフを再開しない合理的な理由は認められず、しかも右五月時点にも必要な配慮をしていないことからすると、原告病院は右五月当時の混乱に乗じて支部組合を財政的に弱体化させることを目的としたとみるのが相当であり、被告がチェック・オフの中止をもって支部組合及び全済労の運営に対する支配介入と判断したのは相当であり原告の主張は理由がない。

7  二重申立について

原告済生会は、全済労と支部組合とは一体であって双方が申立をするのは二重申立であると主張するので判断するに前示のとおり全済労は二八の支部組合の連合体組織であって支部組合は右二八の労働組合の一つであって原告病院及び付属施設の従業員によって組織される労働組合であって、上部・下部の関係にあるもののその構成員等を異にし、しかも支部組合は単なる連絡機関とも認められないことからすれば、全済労と支部組合とは別個の労働組合として団結権を有しているものと認むべきである。そして支部組合に支配介入等の団結権侵害がなされた場合、それが全済労の構成員に対する不当労働行為として全済労に対する団結権侵害の面を有し、結局全済労及び支部組合のそれぞれの団結権を侵害するものとして双方が申立利益を有するものと認められ、二重申立には該当しないものというべきである。

8  次に原告済生会は、本件命令によって維持された初審命令主文第三項について時期的な制限はなく不明確である上、チェック・オフの再開を命ずることは裁量権の範囲をこえ裁量権の濫用である旨主張するのでこの点について判断するに、右主文に時期的な制限が付されていないのは原告済生会主張のとおりであるが、右主文を合理的に解釈すれば、新たに原告らと支部組合の間に協定が締結される等従前のチェック・オフを継続することと相容れない事情が発生するまでの間という趣旨と解すべきであって、かような合理的解釈を前提とすれば、右主文をもって内容が不明確ということはできず、また前説示のとおり原告病院がチェック・オフを中止したこと自体が不当労働行為と認められ、チェック・オフがなされないという状態が継続している限り不当労働行為が継続しているのであるから、そのような状態を解消し、不当労働行為がなければあったであろう状態に回復させるとすれば、チェック・オフの中止を解除してチェック・オフを行うことに帰するのであって、この範囲内でチェック・オフの再開を命じた被告に裁量権の範囲をこえた違法は認められず、原告済生会の右主張はいずれも採用し得ない。

第三結論

以上のとおり原告病院の本件訴は不適法であるからこれを却下し、原告済生会の本訴請求は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用(参加によって生じた分を含む。)につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項但書、九四条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡邊昭 裁判官 遠山廣直 裁判官近藤壽邦は転補のため署名捺印できない。裁判長裁判官 渡邊昭)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例